ペーパーレス化と経理業務の効率化
経理部門には、契約書、見積書、注文書、納品書、請求書、領収書など取引先から受け取った証憑(しょうひょう)書類が大量に集まってきます。こういった証憑書類のほとんどは法人税の申告期限日から原則7年間保存することが税法で定められています。
そのため、経理システムに情報を入力した後は、主に税務調査のために大量の書類を保管しておかなければいけませんでした。しかし、平成28年度の税制改正により電子帳簿保存法におけるスキャナ保存の要件が緩和され、一定の要件を満たせば、スマートフォンで撮影した領収書の保存も可能になるなど、ペーパーレス経理を実現する環境が整ってきました。
経理のペーパーレス化で実現できる業務の効率化
大量の書類の管理から解放され、経理業務のペーパーレス化を実現することで、様々なメリットを受けることが考えられます。
(1) 紙文書の保管・管理コストの削減
領収書や請求書などを種類毎のバインダーにファイリングする作業時間やバインダーを保管するスペースが不要になるため、コスト削減することが可能です。さらに、電子データの場合には検索が容易になるため、必要な書類を探し出す手間も削減できます。
(2) バックアップ管理が可能
紙文書の場合には、原本を保存することが原則とされています。そのため、紛失したり、火災などにより消失する可能性があります。しかし、電子データの場合には、バックアップ管理することにより、紛失や災害時に消失するリスクを下げることが可能です。
(3) 経理業務を効率化できる
これまで、お店や取引先から取得した領収書を経理担当者に渡して、システムに入力してもらうという手間のかかる業務フローが一般的でした。しかし、スキャナ保存制度を活用することで、スマートフォンで撮影した領収書を外出先から会計ソフトに直接送信できるため、業務の効率化が可能になります。
ペーパーレス経理に必要なスキャナ保存要件とは
紙文書から解放され、電子データを管理するペーパーレス経理を実現するには、「電子帳簿保存法」で定められているスキャナ保存要件をクリアする必要があります。ここでは、注意が必要なスキャナ保存要件をご紹介したいと思います。
・スキャナ保存したデータの適切なバージョン管理が必要
スキャナで読み取った電子データは必ず初版として保存し、削除は物理的に行わず、削除フラグを立てるなど形式的に行うこととし、全ての版及び訂正した場合は訂正前の内容を確認できることが必要です。さらに、削除されたデータについても検索を行えることが必要な要件とされています。
・スキャナー保存には事前申請が必要
国税関係書類をスキャナ保存行うには、スキャナ保存を行おうとする日の3ヶ月前までに税務署長に申請を行われなければいけません。申請書についは、「国税関係書類の電磁的記録によるスキャナ保存の承認申請書」をご覧ください。
・書類の重要度によって要件が異なる
契約書や領収書などの「一連の取引過程における開始時点と終了時点の取引内容を明らかにする書類で、取引の中間過程で作成される書類の真実性を補完する書類」を重要度「高」。
請求書、納品書、輸出証明書などの「一連の取引の中間過程で作成される書類で、所得金額の計算と直結・連動する書類」を重要度「中」。
見積書、注文書などの「資金の流れや物の流れに直結・連動しない書類」を重要度「低」と定めています。この書類の重要度により、スキャナ保存要件が異なります。
例えば、重要度「高」と重要度「中」の書類に関しては、書類の取得から入力までの期限が定められていますが、重要度「低」の書類に関しては、入力までの期限は設けられていません。
・タイムスタンプの付与が必要
スキャンした電子データには、「いつ」スキャンされたデータかを明らかにし、改ざんが行われていないことを証明する役割があるタイムスタンプを付与する必要があります。タイムスタンプには、一般財団法人日本データ通信協会が認定するタイムスタンプを付与することが必要です。
さらに、電子データを保存するシステムには、課税期間中の任意の期間を指定し、一括して検証できることも求められています。スキャン保存要件の詳細については、国税庁のサイトをご参照ください。
まとめ
平成28年度の税制改正により電子帳簿保存法におけるスキャナ保存の要件が改正され、領収書などの国税関係書類をスマートフォンやデジカメで撮影し、電子データとして保存できるようになりました。
スキャナ保存を行うためには、税務署長への事前の申請が必要であったり、書類の重要度によって要件が異なっているなど、注意しないといけないこともあります。
しかし、クラウド会計ソフト(補足参照ください)との連携により、単なる経理業務のペーパーレス化だけでなく、一歩進んだ業務改善も行うことが可能です。今後、一層期待される分野ではないでしょうか。
■補足
【ペーパーレス経理とクラウド会計ソフト】
経理の自動化や効率化の点から、インターネットを経由して会計処理を行うクラウド会計ソフトの利用が増えています。ペーパーレス経理はクラウド会計ソフトとの相性も良く、スキャンした領収書をクラウド会計ソフトに送信することで、会計ソフトに自動登録することが可能です。
さらに、会計ソフトによっては、領収書をアップロードする時に適切なタイムスタンプを自動で付与してくれ、一括検証の仕組みも用意してくれるサービスもあります。
ただし、クラウド会計ソフトの利用プランによっては、電子帳簿保存法に未対応という場合や、特別な設定をしてからでないと使えない場合もありますのでご注意ください。
■参考資料
- 電子帳簿保存法
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/index.htm - 国税関係書類の電磁的記録によるスキャナ保存の承認申請書
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hojin/annai/3030_01.htm