機密文書の電子化(デジタル化)と働き方改革の促進
「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」や「子育てや介護との両立など、働き方のニーズの多様化」等の状況に対応するために、「働き方改革」が叫ばれて数年が経過しました。
政府は、2017年度から2027年度までの10ヵ年においてのロードマップ「働き方改革実行計画」を決定し、9つの検討テーマをあげています。
9つの検討テーマのうち「賃金引き上げと労働生産性向上」「柔軟な働き方がしやすい環境整備」「女性・若者が活躍しやすい環境整備」という3つのテーマに関わるのがテレワークの導入です。
従業員301人以上の企業では、20%以上がすでにテレワークを導入済みです。ところが、従業員数300人以下の中小企業では、テレワークを導入している企業は3.0%と、まだまだ低い水準にあります。中小企業がテレワークを導入できない大きな原因は、情報システム面での整備の遅れがあります。特に、機密文書が紙のままで電子化(デジタル化)されていないことが大きな制約となっています。
機密文書の電子化(デジタル化)が進まない理由
テレワークを実現するためには、会社に行かなくても仕事ができる環境が必要になります。しかし、業務に必要な情報が紙ベースであると、会社に行かなければ仕事が進まない状況が発生してしまいます。例えば、決裁書類が紙ベースのためハンコを押す必要があるので出社しないといけない、設計部門の方が過去の機械図面を確認するために出社しないといけないという状況が考えられます。
さらに、機密文書が電子化されていないと、業務フローの中に手作業の部分が残るため、効率の面でも決して良い状態とは言えません。では、なぜ多くの中小企業では機密文書の電子化が進まないのでしょうか。
それは、ほとんどの中小企業は情報システムのセキュリティ対策に不安があるからです。情報漏えいすると影響が大きく、重要度が高い機密文書になればなるほど、電子化することを避けて、紙のまま保管しようとしてしまうのです。さらに、法律の制限が緩和されたことを知らず、昔のように紙のまま保管しなければいけないと、考えている可能性もあるのではないでしょうか。
機密文書の多くは法律で電子化(デジタル化)が認められている
税務に関する書類などの原本の大半を紙で保管している企業は多いのではないでしょうか。保管庫に請求書や領収書が入った箱が何箱も積まれている光景をご覧になった方も多いと思います。
実は、2005年に施行された「e-文書法」により、そういった税務書類に代表される会社関係書類のほとんど全ての機密文書はスキャナで電子化し、コンピューターのハードディスクや記録メディアに保存できるようになりました。
会計帳簿、見積書、納品書、営業報告書、財産目録、組合員名簿、資産負債状況書類といった機密文書を電子化して保存すれば、紙の書類は廃棄してもよくなったのです。(3万円以上の契約書や領収書は紙による保存が必要など、一部の例外がありましたが、平成27年の電子帳簿保存法改正により、金額に関わらず全ての文書で電子化保存が認められました。)
機密文書を電子化(デジタル化)することのメリット
機密文書を電子化することで、情報セキュリティ面での不安は生じるものの、メリットの方が大きいと考えられています。例えば、機密文書の電子化にはこんなメリットがあります。
- 紙の機密文書を保管する物理的なスペースの削減
- 業務全体のスピードアップと効率化
- 機密文書を検索する時間の短縮
- 情報共有や伝達の容易さによる情報活用の促進
- 紙の機密文書廃棄に伴うコスト削減
- 搬送や管理に伴う人件費の削減
- デジタルデータの特性の活かし、適切に管理することによりコンプライアンスを強化
- バックアップデータにより、地震や火災があっても迅速に業務を復旧することが可能
数多くある機密文書の電子化のメリットの中でも、文書の検索スピード向上による恩恵は大きいのではないでしょうか。倉庫に入った箱から、分厚いバインダーを取り出し、1ページずつ探すことと比べると、かなり効率が上がるのは間違いありません。
様々な業種の企業で実証されている機密文書電子化のメリット
経済産業省がまとめた「文書の電子化・活用ガイド」によると、様々な業種の企業で機密文書の電子化が進み、業務の効率化や顧客満足度の向上に貢献しているようです。
事例1:大手保険業において、正確な照会のために保険申込書の原本を参照していた。そのため、検索に時間がかかり、契約者からの問い合わせに迅速に回答できていなかった。しかし、保険申込書をOCR技術にて電子化することで、照会業務の時間を短縮した。さらに、審査業務の効率化にもつながり、生産性を大幅に向上できた。
事例2:従業員30名の税理士事務所において、クライアントから預かった機密文書や、作成した税務申告書を保管するために膨大なスペースが必要だった。しかし、電子化することにより、紙の機密文書を廃棄でき、文書保管コストを年間54万円削減できた。また、クライアントに対して成果物を電子文書で納品でき、完成から納品までの時間を短縮できた。
事例3:中堅製造業のF社では、取引先から月間約7,500枚の請求書を受け取っており、1年でダンボール50箱にも達していた。ファイリング作業、書庫への保管費用、廃棄処理費用の負担が大きかった。請求書を電子化することで、保管、廃棄の費用を削減するだけでなく、社内外からの請求書に関する問い合わせにも迅速に対応できるようになった。
まとめ
「働き方改革」において注目されているテレワークは、中小企業ではまだまだ普及していません。その原因の一つは、機密文書が電子化されていないことにあります。
2005年に施行された「e-文書法」では、多くの種類の機密文書の電子化が認められました。そして、機密文書の電子化を行った企業では、保管コストや管理コストの削減ができています。さらに、検索や編集などの操作性の向上により、業務効率が大幅に改善されたという事例も多数報告されています。
機密文書の電子化により情報セキュリティ面での不安が頭をよぎるかもしれません。しかし、デジタル化した機密文書に対して、アクセス制限やログ管理を適切に行うことで、紙媒体で保管するよりも情報漏えいのリスクを下げることも可能です。このようなデジタル化された文書を適切に管理できるVDR(バーチャルデータルーム)というプロダクトも存在しており、弊社も提供しています。まだ、機密文書を電子化していなければ、一度検討してみてはいかがでしょうか。
■ ご参考